未成年者が相続人の中にいる場合
被相続人が亡くなった際に、相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者は遺産分割協議に
参加することができません。なぜなら、遺産分割は法律行為(☆)であって、未成年者は
法律行為ができないからです。
上図をご覧下さい。夫婦と子供という家庭で不幸にして父親が亡くなった場合、相続人は
母と子2人になります。一般に未成年者の代わりに法律行為を行うのは親権者(又は法定代理人)
ですが、このように子が未成年者である時には、遺産分割協議で親権者である母と子が
利益相反関係 にあるため、親が親権者として子の代理行為をすることが出来ません。
☆法律行為とは・・契約や遺産分割、遺言など、自分の意思表示により法的効果を生む行為
を言います。 簡単に言ってしまえば財産に何らかの影響を与える行為です。
未成年者がいる場合の遺産分割協議は特別代理人を申し立てる
ひとつには、未成年者が成人するまで遺産分割協議を保留する方法もありますが、このままで
は誰一人相続財産に手をつけられない状態になってしまいます。また、本来分割が決まってい
たら使える相続税評価を減額する特例が使えないデメリットも出てきます。
そこで、子が未成年者である場合には、家庭裁判所に対して特別代理人の申立てを行います。
特別代理人とは、家庭裁判所にて選任がなされ、代理が必要な行為を本人の代わりに行う者のことです。
ただ、親と子が利益相関行為に当たる場合には、未成年者には親以外の代理人である「特別代理人」を選任させる必要があります。これで相続手続きを進めていくことができるのです。
特別代理人の選任の仕方
誰が未成年者の代わりに特別代理人になれるのかということですが、特別代理人には相続に関係がない者であれば誰でもなることが可能です。例えば、今回の相続には関係がない未成年者の叔父や、従妹(いとこ)などのご親戚であっても特別代理人になることができます。 また、知人や近所の方になってもらってもかまいません。
ただ、遺産分割の内容を知られてしまうので実務では、親族に頼んだり、司法書士や行政書士などの専門家に頼むケースも多いと思います。
特別代理人の申立て
特別代理人の申立ては、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
(特別代理人候補者の住所地ではありません。)
特別代理人選任申立書を記載して下記書類を添えて家庭裁判所に提出します。
1.特別代理人の選任申立書
2.未成年者の戸籍謄本
3.親権者の戸籍謄本(子供と同一戸籍の場合は1通で兼ねられます)
4.特別代理人候補者の住民票
5.「遺産分割協議書(案)」
家庭裁判所で特別代理人の選任が認められると「特別代理人選任審判書」という証明書をもらうことができますので、その選任審判書を見せることで特別代理人として正式に認められた証明となります。
遺産分割協議の内容
遺産分割協議書(案)というものは、家庭裁判所に対して特別代理人選任申立てを行う際に同時に提出するものですが、家庭裁判所ではこの案の内容を見た上で、特別代理人の選任申し立てを受理するかどうかを判断します。
家庭裁判所は未成年者の権利を守ることを基本としますので、未成年者の権利奪うような内容の遺産分割協議書(案)を嫌います。子供には遺産分割する能力がないため、子供の法律上の相続分は最低限でも確保することを前提としています。
上記の例ですと、法定相続分は1/2×1/2=1/4が子供の取得分として確保されているかを審査することになります。 未成年者がいる遺産分割協議において、重要なことは特別代理人を誰にするかではなく、分割協議の内容になります。大原則は法定相続分の確保です。
もしこれに満たない財産の分割案であれば、その理由を裁判所にしっかりと説明できないと分割の変更を求められます。
遺産分割協議書には金融資産であれば、銀行名と支店名と口座番号の記載、不動産については物件明細の記載が必要です。
それに加えて、評価額を補完するのもとして、不動産であれば登記簿謄本や固定資産評価証明書、預貯金であれば相続日の残高証明書や通帳写しを求められます。
未成年者控除
このように未成年者が相続人に含まれていると特別代理人の選任をして家庭裁判所が認めた分割内容で遺産分割するデメリットがありますが、メリットとしては納める相続税につき未成年者控除が適用できる点があります。
計算された相続税のうち未成年者が法定相続人である場合には、成人になるまでの期間に応じ次の税額の控除があります。
控除額=(10万円/年)×(成人になるまでの年数)
例えば相続発生日に10歳の子がいた場合には10万円×10年=100万円。
なお、この未成年者控除額は本人の税額から引ききれない場合には扶養親族の税額から控除することができます。