現預金
名義預金とは
税務調査で指摘される代表例が名義預金です。
残高証明書に記載される預金の金額は被相続人名義のものに限られますが、
預金通帳の名義が被相続人でなくても、実質的な所有者が被相続人である場合には、
その預金を名義預金と言い、相続財産に計上すべき財産とされています。
名義預金の具体例
生前に被相続人口座から引き出して配偶者や子供の名義で預金をすることは、
たとえ財産を隠そうという意図が全くなくても一般的な家庭ではよくあることかと思います。
たとえば、こんなケースは経験ありませんか。
○銀行員が預金の勧誘に来て、お子さんのお名前で預金してくださいと頼まれて子供の口座を作って預金した。
○田舎のおじいさんが孫の名義で定期預金を作って、将来の進学や結婚のときに使ってもらおうと、
地元の銀行に預金して、その預金証書をおじいさんが保管していた。
○ご主人に退職金が出たので、内助の功に感謝して半分を妻の名義で預金していた。
○妻は夫から毎月の生活費として30万円を渡されていたが、そのうちからやりくりして
3万円をへそくりとして夫には内緒で毎月妻の自分の口座に入金していた。
贈与との違い
贈与とは、あげる側がこの財産をあなたにあげます、もらう側はいただきます、というように、
贈与者(あげる側) が自己の財産を無償で相手方に与える意思を示し、
受贈者(もらう側)がそれを受諾することによって成り立つ契約行為になります。
契約と言っても口頭でも成立しますので、契約書の取り交わしは必ずしも必要なく、
お互いの意思が示されれば良いとされています。
上の例では、もらう側が預金してくれたことを知らなかったり、
生活費を節約した余剰金を妻に贈与するとは言っていないため、
双方のどちらかの意思表示がないため贈与が成立していないとの判断がされるものです。
昔作った名義預金だから時効が成立するのではないか・・
実は、名義預金には時効はありません。
贈与の場合は時効が6年、悪質なものは7年ですので、あげます、もらいますという意思表示
をして実質的な財産の管理が受贈者側に移って6年たてば時効は成立します。
(実際には時効の起算日は贈与した年の翌年3月15日になりますので、ここから6年)
しかし名義預金は、そもそも贈与が成立していないため、何年たっても時効は来ません。
預金の預入が10年前でも、15年前でも名義預金は相続財産として指摘される可能性が、
あるということです。
専業主婦の預金が夫の相続時に多額にあったとしたら・・
相続時に夫婦の預金残高を調べてみたら、ずっと専業主婦だった妻の預金が5000万円、そしてサラリーマンで定年までずっと働いていた夫の預金額と同じだったというケースを考えてみましょう。
前提として過去に贈与税申告は1度もしていなかったとします。
専業主婦であるということは、毎年の経常収入はありません。
結婚持参金や実家からの財産分与があれば話は別ですが、宝くじにでも当たらなければ財産の蓄積を説明できないでしょう。
実務では、相続時に配偶者が所有していた財産から、その配偶者自身が蓄積することが出来た財産(年金収入やパート収入、財産分与等)及びそれらを使った運用益との差額が生じた場合、名義預金を疑って審査することになります。
実際、相続税申告書を提出すると、税務署は家族の預金の調査を行いますし、過去の預金移動についても時系列的な調査をしますので、注意が必要です。
配偶者も家事労働で働いているのだから,正当な対価ではないのか・・・
専業主婦である配偶者に多額の預金があっても、それは長年の家事労働に対する報酬でるのだから、正当に評価してもらえないのか、とのご質問をよく受けます。
確かに365日朝から晩まで主婦の仕事は忙しいですし、“3食昼寝付”などと揄されるような楽な仕事ではありません。
家政婦を雇えばそれなりの報酬を支払わなければなりませんから、主婦の仕事に対して相応の金銭的な価値を見いだしたいところです。
しかし、税務上税務署は一切家事労働の仕事の対価を認めてくれません。収入は個人に対して課税するもので、夫が稼いできたものはあくまで夫の収入、夫の資産であり、内助の功として一定割合を妻に按分する考え方はありません。
その代わり、配偶者には相続時に税務上の優遇措置がとられています。被相続人の配偶者は、老後の生活基盤の保証と結婚生活中に築いた功績を配慮して、配偶者控除として1億6千万円まで又は全体の法定相続分のいずれか大きい方の遺産の取得について相続税をかけない特例を用意して辻褄をあわせています。
預金通帳や印章の管理
家族預金の通帳や印章は皆さんどのように管理しているでしょうか。印章は個人別に作っていますでしょうか。
例えば、お父さんが子供に、この預金はあなたにあげるよと言ってもその預金通帳と印章 をお父さんがずっと保管し、
子供はその通帳や印章を手にすることが出来なかったとします。
あげるということは=受贈者が事由に使える状態であることが必要です。
必要な時におろせない状態が常態となっている場合は、税務署は贈与が成立していないと認定してくる可能性があります。
贈与の際は、もらう側が自由に使えるように通帳や印章は相手に渡してあげることが大切です。
入金ばかりで出金が一度もない通帳は引き出しできない常態だったのではないかとの見方もされるケースもありますので注意してください。
税務調査での名義財産の指摘割合
国税庁は税務調査の状況を毎年公表しています。
この中で現金預金関係は指摘の額、割合とも高い実績があります。
29事務年度(平成29年7月から平成30年6月)全国で実地調査は12,576件行われました。
このうち申告漏れの指摘は10,521件、指摘される率は、83%と高率です。
申告漏れ課税価額は3,523億円にのぼり、1件当たり申告漏れ額は3348万円となっています。
申告漏れとなった財産の種類は現金預金がトップで1183億円(申告漏れ全体に占める割合33.5%)、
次が有価証券527億円(同14.9%)とこの2つで全体の約1/2を占めています。
しっかりと審査をしてくれる税理士に申告を依頼することが税務調査を避ける一番の近道になります。
生前贈与
贈与税の基礎
財産をもらった方の年間受取総額が基礎控除である110万円以内であれば贈与税はかかりませんし、
贈与税申告をする必要はありません。
一般に110万円以内であれば何もしなくて良いということになります。
110万円は何人からもらっても良いのですが、あげた側ではなく、受け取った側の総額が年間110万を超えると贈与税申告義務が生じます。申告期限は贈与を受けた年の翌年2月15日~3月15日になります。
110万円を超える贈与には、たとえそれが夫婦間であっても申告・納税が必要となります。
贈与税の税率
贈与税の税率は累進課税となっていますので、年間の贈与額が大きくなればなるほど高くなります。
また、相続税を補完する税目であるため、税率は相続税より高めに設定されています。
その税率は誰から貰うかにより異なり、直系尊属(祖父母や父母など)から、
その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与の場合は下記右側の特例贈与財産として一般贈与財産よりも少し安い税率となっています。
例えば500万円を一般贈与財産として貰った場合の税額は、53万円であるのに対し、
⇒(500万-基礎控除110万)×税率20%-控除額25万=税額53万円
特例贈与財産の場合の税額は48.5万円となります。
⇒(500万-基礎控除110万)×税率15%-控除額10万=税額48.5万円
なお、その年に一般贈与財産と特例贈与財産の両方を受けた場合には、
一定の計算式により按分して算出します。
贈与財産の相続財産への持ち戻し
昔、相続直前に駆け込み贈与が行われた事例が頻発し、課税逃れ、課税の公平性を損なうという観点から問題視されました。
直前の贈与についてはなかったものとして被相続人の相続財産として税額を計算しようという趣旨から、贈与日から3年以内に相続が発生した場合は過去の贈与について問われます。
具体的には、相続が発生した場合、相続などにより財産を取得した人が、被相続人からその相続開始前3年以内(死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間)に贈与を受けた財産について、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算することとなっています。
これは金額が110万円超かどうかは関係ありません。
たとえ少額の贈与でも加算する必要があります。ただし、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額は、加算された人の相続税の計算上控除されることになりますので、相続財産に加算しても税金を2重取りされることはありません。
相続財産として3年以内の持戻しの対象外となる贈与について
前段で、相続開始から3年以内の贈与は、相続財産に持ち戻さなければならないと申し上げました。
ただ、いくつか例外があって持戻しをしなくてもよい贈与があります。
おしどり贈与、住宅資金贈与、教育資金贈与は持戻ししなくて良いものとされています。
また、相続で財産を取得しない相続人や相続財産を取得しない孫や法定相続人の配偶者は、
そもそも持ち戻す必要がありません。
おしどり贈与
おしどり贈与とは、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、
居住用不動産の贈与または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、
基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
この特例を受けるための適用要件は、
(1) 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
(2) 配偶者から贈与された財産が、 居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
(3) 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した
居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
おしどり贈与適用の為の申告について
これから購入・建築をする資金を現金で贈与する場合には基礎控除110万円と配偶者控除2000万円合計2110万円の範囲内かどうかはすぐに判断できますが、今お住まいのマイホームの価額がいくらかを算定するのは少々大変です。土地は路線価地域であれば贈与年の路線価をベースに、倍率地域であれば固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて算定していきます。
自宅の価額が2110万円を超えてしまうと贈与税が発生してしまいますので、一般的には税金のかからない範囲内で贈与することとなります。この場合は敷地全体を贈与するのではなく、持分を移転することとなります。持分の算定に当たっては細かい計算が必要となりますので、詳細の計算に不安がある場合は、専門家に相談するのが安全でしょう。
当事務所では贈与税プランを行っていますので、ご興味がありましたらご照会ください。
相続税対策としての生前贈与
被相続人からの相続開始3年以内の贈与は相続財産に持ち戻されますので、計画的に何年かに亘って贈与をしていることが、相続対策として有効です。
贈与税率は相続税率よりも高いのですが、基礎控除を上手く使うことで大きなメリットが出ます。
年間110万円であれば無税で移転が可能ですので、
5年続ければ550万円、
毎年3人に贈与していけば1650万円を無税で移転することが出来ます。
スピード重視の場合は贈与税を払うことも検討する。
もう少し財産規模が大きい方であれば贈与税を払って移転のスピードを上げるのが賢明です。
仮に年間200万円贈与すると110万円を超えた90万円に対して10%の贈与税9万円がかかります。
これを5年間、家族3人に贈与を続けたとすると200万×5年×3人=3000万円の移転に対し、
贈与税は5年間合計で135万円になります。
ということは、贈与税の実行率は 135万円÷3000万円=4.5%
つまり相続税の最低税率10%の半分以下で贈与が完結し、さらに3年経過後は贈与した3000万円分
被相続人の財産が減っているため累進課税される相続税の税率も下がる可能性があるということです。
また、法定相続人以外の家族への贈与は3年以内の持戻しの対象外ですので、直系の子よりも孫や嫁に贈与した方が効果的かもしれません。
貰った現金の活用方法保険との組み合わせ
多額の贈与を受けても今は特に使う充てもない、でも将来の相続税が心配といったケースでは
将来の納税に備えて生命保険に加入することも有力な方法です。
被保険者⇒父
契約者⇒子として
贈与で受け取った資金を原資に子が保険契約をした場合、
万一父が亡くなった場合に支払われる死亡保険金は子の一時所得となり、相続財産となりません。
贈与をしていくことで保険料の原資を確保し、相続財産を殖やさずに納税資金を確保できます。
贈与する場合の注意事項
贈与とは、あげる側がこの財産をあなたにあげます、もらう側はいただきます、というように、
贈与者(あげる側) が自己の財産を無償で相手方に与える意思を示し、受贈者(もらう側)がそれを
受諾することによって成り立つ契約行為になります。
契約と言っても口頭でも成立しますので、契約書の取り交わしは必ずしも必要なく、お互いの意思が
示されれば良いとされています。
逆に言うと、
もらう側が預金してくれたことを知らなかったり、
自由に使える状態にしてもらっていなかったとしたら、
贈与の効果が受贈者に及びません。
このような状態では、まだ贈与が成立していないと当局から判断される可能性が高いです。
贈与には時効がありますから、6年(悪質な者でも7年)経過すれば贈与につき指摘される恐れはなくなりますが、贈与が成立していないと判断された場合のリスクは、
その行為が10年前でも20年前でも名義預金と判断され、相続財産に計上させられてしまうということです。
贈与契約書の取り交わしと銀行口座の利用
贈与する時は、贈与契約書を交わしてお互いが署名捺印した上で、資金は銀行口座を通じて
出金日と入金日が分かるようにすることが大切です。
未成年の孫への贈与であれば、未成年者は契約行為が出来ないので、贈与契約書には親権者である親が署名捺印をします。
贈与資金は振込または銀行の口座を使って出金日、入金日を記録して第三者が見てもわかるよう証拠を残しておきます。現金贈与は後日のトラブルのもとです。
確定日付
贈与契約を後日遡って作ったのではないかと疑いをかけられないようにするためには、契約書に確定日付を取っておくと完璧です。
確定日付とは、公証役場で付与してくれる日付で、公証人が私書証書に日付のある印章(確定日付印)を押捺した場合のその日付をいいます。
その当日現在、その文書が存在していたことを証明するための日付印です。
この確定日付を押しておけば、文書の作成の日付が実際の作成日と異なるなどという紛争の発生をあらかじめ防止する効果があります。
文書の作成年月日・作成者の署名又は記名押印が必ず必要です。有料(1件600円)で押してもらえます。
特に高齢化社会の中、要介護や要支援となって老人ホームで生活している時の贈与は贈与する意思があったかどうかもポイントとなってきます。
契約書を代筆したり、本人が知らないところでお金だけ振り込んだりすることは、後日の調査が入ったときに否認されるリスクがあると心得ておきましょう。
贈与税申告漏れの件数税額
ここで、贈与税の税務調査の“成績”を見ておきましょう。
平成29事務年度の実地調査件数は3,809件でしたが、うち申告漏れ等の非違件数3,565件と調査対象の93.5%にのぼり、贈与税は調査に入られたらほとんどの場合指摘を受けているというのが実態です。
申告漏れの課税価額は全体で189億円、追徴税額は57億円、1件当たり530万円の指摘を受け160万円の追徴税額がありました。
申告漏れとなった財産の内訳
申告漏れとなった財産は現金預貯金で、件数ベースで全体の72.7%を占め、次が有価証券11.7%となっており、この2つで91.6%と圧倒的多数を占めています。
現金周りは特に注意して申告書を作成しなければなりません。
相続税の税務調査に入ったら過去の贈与について指摘されたという事例は毎年多数起きています。
(国税庁HPより)