認知症の方が相続人の中にいる場合

 

相続人の中に認知症や知的障害などで判断能力が欠けている方がいる場合、遺産分割の内容が理解できないため遺産分割協議書への署名ができません。

認知症の方の署名を別な相続人が勝手に代筆したり、認知症の方以外の相続人だけで遺産分割協議を行っても無効です。

 

法定相続分

 

相続人間に認知症の人がいる場合、一般的に取られている方法は、成年後見制度を利用することです。しかしこの制度は時間や費用がかかるため、成年後見制度を利用しない=遺産分割協議をしないで相続する方法があります。

認知症の患者がいる場合、本人に意思能力がないので遺産分割協議に参加できらいため、遺産分割協議を経ずにそのまま法定相続分に従って遺産の分割帰属を受けるというものです。

 

すべての遺産を法定相続分に従って各自の相続人が受け取れば、成年後見制度を利用することなく相続ができます。ただこの場合、不動産は相続人全員の共有状態になります。売買など処分するには共有者全員の承諾が必要ですので、問題の先送りになってしまいます。さらに、預貯金などすべての遺産がこまかく分割されてしまうので、遺産の種類が多い場合などには手続きが煩雑になります。

なお、普通預金や通常貯金に関しては、従来、上記のような各相続人ごとの権利行使が可能であると考えられていましたが、最高裁平成28年12月19日判例変更により、当然分割性が否定され、未分割状態での単独権利行使が不可能となりましたのでご注意下さい。

 

 

予め遺言を作っておく

 

相続人の中に認知症患者がいる場合には、予め遺言書を残しておくことです。遺言は遺言者による意思表示であるため、遺贈を受ける人に意思能力があるかないかは問題になりません。そこで、遺言者が生前において、各相続人に相続をさせる内容の遺言書を作成しておけば、相続人らがわざわざ自分達で遺産分割協議をする必要がなくなります。従って遺言があれば相続人の中に認知症の人がいても財産を分けることができます。

 ただし遺言を残していない段階で相続が既に発生している場合には手遅れになります。

 

成年後見制度

 

既に判断能力が不十分な状態になった時に法定後見制度は、申し立てにより家庭裁判所によって選任された後見人等が本人に変わって財産、権利を守り、認知症の方を法的に支援する制度です。この法定後見には、その判断能力の衰えの程度により3段階に分かれています。判断能力が全くない場合は後見、判断能力が著しく不十分な場合は保佐、判断能力が不十分な場合を補助として、本人、配偶者、4親等以内の親族等が申し立てることができます。

補助は、日常的な買い物等は一人でできるけれど、重要な財産行為について、一人で行うことが不可能ではないが適切に行えない恐れがあり、他人の援助を受けたほうが安心である、というような方を対象とします。

補助人には、相続の承認や放棄、新築や増改築等、法律で定められた行為の一部について、同意権・取消権が与えられます。

保佐は、日常的な買い物等は一人でできるけれど、重要な財産行為を行う際には、誰かの支援があったほうが良い方を対象とします。保佐人には、相続の承認や放棄、新築や増改築等で、法律で定められており、これらの行為を被保佐人が行うためには、保佐人の同意が必要となります。

後見は、日常の買い物が全くできない等の状態、つまり判断能力が全くない方が対象となります。後見人には、被後見人の財産管理や法律行為を代わりに行う代理権と取消権が与えられます。取消権とは、被後見人が行った法律行為を取り消すことができる権限です。

既に認知症の介護をしていて相続人が被後見人となっている場合や相続時に認知症で判断能力が不十分で法律行為が難しい場合には、遺産分割協議を進めるためには、成年後見人が、判断能力が欠けている方の代理人として遺産分割の話し合いをする必要があります。

成年後見の申立先は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。成年後見の申立があると、家庭裁判所は調査官を通じて事情の調査をしたり、医師に依頼して鑑定を行ったりすることで、成年後見開始の審判を行い、成年後見人を選任します。成年後見人には、親族のほか、事案により、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が選任されることもあります。

 

特別代理人の選定

 

通常認知症の方を介護している場合にはご家族の方が後見人になっているケースも多いと思います。ただし、成年後見人がその方の遺産分割に係る相続人である場合には、認知症の相続人と後見人である相続人とが利益相反の関係にあるため、さらに特別代理人を家庭裁判所に選んで貰う必要があります。

成年後見人には相続に関係していない親族がなるか、適当な方がいなかったり、財産が多額だったり複雑な場合は司法書士や弁護士などに依頼することとなります。誰を成年後見人に選ぶかの決定権は裁判所にあります。

当然のことながら、認知症である相続人の方が相続財産をもらわないというような分け方はできません。認知症の方の権利を守ることを目的としていますので、原則として認知症である相続人が法定相続分を取得する必要があります。

なお、成年後見人は、遺産分割協議が終わっても終了せず、認知症の方が亡くなるまで財産の管理や生活のサポート、裁判所への報告などの仕事をする義務があります。

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