遺言書
遺言書の種類には一般に自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。
自筆証書遺言
全文を自筆で書く遺言書です。手軽に出来、費用もかかりませんし、証人も不要の為内容を秘密にしておくことができます。しかし形式が整っていないと無効になるリスクがあります。遺言者が亡くなった後、保管者または発見した相続人は遅滞なく家庭裁判所に提出し、その検認の手続きを受ける必要があります。封をしてある場合は開封せず、家庭裁判所で相続人等立ち会いのもと開封することになっています。勝手に開封したり、裁判所へ提出しなかった場合には5万円以下の過料が処せられる場合があります。
記載に必要事項の主なものは次のとおりです。
・書いた日付を明記します。2019年1月吉日など作成日が特定できない表現は無効となります。
・署名と押印します。 認印でも問題はありませんが実印がベストです。
・加除訂正は決められ方式に従がう必要がありますので、法律が定めた方式に則らないと無効になりますので、訂正や追加がある場合は全て書き直ししたほうがよいでしょう。
・封筒に入れて封印する
法的には規定はありませんが改ざんのリスクを避ける為に自筆証書遺言書は封筒に封印して保存したほうが良いです。
確実に遺族が発見できるような場所や貸金庫などの安全な場所に保管します。
その他
・具体的に書き曖昧な表現を使わないようにします。不動産であれば登記簿謄本通りに正
確に記載します。明確でない場合に遺言書による登記の移転ができない場合が生じます。
土地であれば所在地、地番、地目、地籍などまで詳細に記載する。
預貯金は金融機関の支店名、預金の種類や口座番号まで記載する。
・相続人の遺留分についても配慮しないと、遺留分減殺請求権により紛議が生ずる恐れがあります。
・遺言による遺産分割をスムーズに進める為にできれば遺言書で遺言執行者を指定しておきます。
ワープロ記載の有効化
なお、平成31年1月13日からは、不動産の目録などをワープロで記載することができるようになっています。
(ただし偽造防止のため、各ページに自署と押印が必要)
保管制度がスタートします
また令和2年7月10日からは、法務局が「自筆証書遺言」を保管する制度が始まります。
法務局では、遺言書を預かる際、遺言書が法務省令で定める様式に合っているか、チェックをしてくれることで形式不備による無効のリスクが低減されます。
また、遺言書の原本を保存するとともに、画像情報を法務局同士で共有し、相続人などからの請求に応じて、遺言書の内容や、遺言書を預かっている証明書など提供することや、相続人のうち、誰かが遺言内容の確認などをすると、他の相続人に通知して、遺言書が存在することを知らせるようになります。
さらに、「自筆証書遺言」が有効になるためには、家庭裁判所で「検認」という手続きをする必要であり、検認には数週間かかってしまうため、相続手続きが止まってしまいます。
しかし、法務局で預かった遺言書については、家庭裁判所での検認手続きが不要であるため、遺言書の内容が確認できれば、すぐに相続の手続きを始めることができます。
公正証書遺言
公正証書遺言は、裁判官や検察官等の経験者である公証人が遺言者から遺言の内容を直接聞き取り、公証人が書面に作成する方式です。
自分で遺言文を書く必要がありません。また、遺言が無効になったり、偽造される恐れがありません。ただし財産額に応じ、公証人の手数料がかかるほか、証人を2名立てる必要があります。
原本は公証人役場で原則20年(通常は本人の死亡まで)保管されますので遺言書の所在が不明になる事もありません。遺言検索システムに登録されますので遺言者の死亡後、相続人は遺言の存在を容易に確認する事ができます。
また公正証書遺言は相続開始の際に家庭裁判所の検認の請求も必要りませんので、遺言者の意思をスムーズに実現することができます。
公証人役場は東京に45カ所、神奈川に15カ所、千葉11カ所、埼玉10カ所ありますので、お近くの役場で手続きが可能です。また、健康上の理由等で役場へ行くのが難しい場合は有料ですが出張してもらうことも出来ます。
【必要種類】
・遺言者の印鑑証明書
・遺言者と相続人との関係が判る戸籍謄本、受遺者の戸籍謄本
・相続人以外に遺贈する場合はその人の住民票
・会社等の法人に遺贈する場合法人の登記簿謄本
・財産特定の為の不動産の登記簿謄本・固定資産評価証明書、預金通帳の写し。
・証券会社証人予定者の住民票等
公証人と内容について事前に打ち合わせの上、公証人が証書の内容を遺言者と証人に
読みあげ、遺言者と証人がこれに署名捺印します。(遺言者は実印、証人は認め印可)
そして公証人が署名、捺印し公正証書遺言が完成します。
公正証書遺言書は原本と写しである正本、謄本の3通が作成され、原本は公証役場に保
管され、正本と謄本が遺言者に渡されます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言者が自分で作成した遺言書を公証人のところまで持参した上で、遺言書の「内容」を秘密にしたまま、
遺言書の「存在」のみを公証人に証明してもらう方式です。
公証人に「存在」を証明してもらえるので、自筆証書遺言のように、遺書が本物かどうかといった遺族の間で争いは起きませんし、公正証書遺言のように遺言の内容を人に知られてしまうこともありません。
遺言書は、自分で署名押印さえすれば、パソコンを使ったりまたは代筆してもらったりしてもかまいません。秘密を守るため、封筒などに入れて遺言書自体を封じ、遺言書に押印した同じ印鑑で封印をする必要があります。
事前に作成した遺言書を持って、2人以上の証人を連れて公証役場に行きます。遺言者は、公証人及び証人の前にその封書を提出して、自己の遺言書である旨及びその筆者の氏名及び住所を申述します。作成された遺言書は遺言者自身で保管します。
なお、公証人は遺言の「内容」まで確認をするわけではないので、手間を掛けたのに遺言としての要件が欠けており無効となってしまう危険性がない等の理由により、あまり利用されていない方式です。
遺留分
相続では被相続人自身の意思を尊重して遺産の分割をすべきですが、完全に自由な処分を認めてしまうと、相続人の期待が裏切られてしまうこととなるので、法律で一定の範囲の近い相続人についてのみ相続人の取得する権利を認めています。遺留分とは相続財産を確保できる最低限の割合のことで、遺言の内容が相続人の取り分を侵害しているときに限り認められている権利です。
民法では、遺言は遺留分に関する規定に違反することはできないとしていますので、遺留分は遺言に優先します。
遺留分が認められる被相続人と近い相続人とは、兄弟姉妹以外の法定相続人です。基本的には、配偶者と子供と親になります。また子の代襲相続人にも遺留分が認められます。たとえば、子が被相続人より先に亡くなっている場合には、孫が代襲相続しますがこのとき孫にも子供と同じ割合の遺留分が認められます。なぜなら代襲相続人は、被代襲相続人の地位をそのまま引き継ぐものだからです。
遺留分の割合
遺留分の割合は他にどの相続人がいるかにより次のとおりになります。
遺留分を計算する際、遺留分の基礎となる財産を確認することから始まります。
遺留分の基礎となる財産
=(被相続人が相続開始時に持っていた財産)+(生前贈与した財産)-(債務)
仮に遺産総額9500万円
生前贈与額 1000万円
債務額 500万円
相続人子供4人(A、B、C、D)の場合
子供1人(A)の遺留分は、
9500万円+1000万円-500万円=10000万円
10000万円×1/2(遺留分割合)×1/4(法定相続分割合)=1250万円
もし、遺言でAの取り分が1250万円、全体の1/2×1/4=1/8を下回っていて、Aが納得できないと思った場合には納得できないと主張する権利(慰留減殺請求権)を唱えることが出来ます。